医師事務作業補助者加算は費用対効果が十分に得られる加算です。
市販のセミナーは事務職員の育成・教育にも最適です。
MAを担当しない職員にも受けてもらいたい研修です。
勤務医の負担軽減及び処遇改善を図るために医師の事務作業補助の体制を評価する加算として「医師事務作業補助体制加算」は2008年に初めて導入された個別項目です。
導入以後、診療報酬改定ごとに変更が加えられ、点数が増点されるという珍しい個別項目です。
今回は、この医師事務作業補助体制加算について経営的側面を含めて解説したいと思います。
この記事は
病院の経営層、医事課、薬剤師など病院運営に関わる方に向けた記事です。
個別項目のナントカ加算というものは、「費用対収益」を考えた際、経営的な効果がマイナスになるような加算が多く存在します。
例えば、入退院支援加算は手厚い人員配置が施設基準に求められていますが、配置する人件費から考えると到底、収益は追いつかない保険点数になっています。
一方、この医師事務作業補助体制加算は、非常勤職員の配置であれば、収益が費用を上回ることもあるので、経営的な側面からも導入に値する個別項目だと考えられます。
加えて、医師事務作業補助者(通称:MA・メディカルアシスタント)が医師の診察補助につくことで診察の効率化が進み、より多くの患者さんを効果的に室の高い医療を提供することが期待できます。
実際の施設基準や保険点数から考えて、配置した場合の収益シミュレーションもやってみました。
いわゆる「加算」というものを単独でみた時、施設基準を満たす配置を実施した場合、ほとんどの場合で収益よりも人件費のほうが高くなります。
この加算においては、配置するだけでもそれなりの収益性があるという結果になりました。
ぜひ最後まで、読んでください。
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人員に係る施設基準
この加算には医師負担を軽減するための委員会の設置であるとか、救急患者の受入などの基準が設けられていますが、今回は人員に係る基準のみを考えたいと思います。
\人員に関わる主な施設基準/
6ヶ月間の研修期間に32時間以上の研修を行う
許可病床数と加算の区分ごとに必要配置数は異なる
32時間の研修
医師事務作業補助者(MA)として届け出る人員には医師の事務的なサポートがしっかり担えるように厚生労働省が定める32時間以上の研修を受ける必要があります。
医師事務作業補助者(MA)の研修の特徴は以下の通りです。
\医師事務作業補助者(MA)の研修ポイント/
入職後6ヶ月間はOJT研修期間
厚生労働省が定める32時間以上の基礎研修も含む
基礎研修は特定の条件を満たすことで免除される
研修内容はカルテ内容を理解する能力はもちろんのこと、自らの役割、各種法令、感染や医療安全まで広い範囲が含まれています。
研修は大きく2種類に分かれています。
6ヶ月間のOJT研修(オンジョブトレーニング研修)と厚生労働省が定める32時間以上の基礎研修です。
32時間の研修は以下のような内容が求められています。
導入当初には希少価値もあってか、研修費用に10万円以上かかっていましたが、最近ではWEBでの研修も多くなり3万円程度でも受講することができます。
3万円程度なら病院負担で、養成していくことも考えやすくなります。
内容が広い範囲に渡り、医療者としての知識研鑽になるのでMAに限らず、医事課職員や総務職員などの事務職員全員が理解しておいたほうが良い内容です。
事務職員の育成に使っても良いのではないでしょうか。
全日本病院協会 医師事務作業補助者研修
一般社団法人日本病院会 医師事務作業補助者コースのご案内
必要人員配置数の計算方法
算定できる保険点数は病床数と加算区分によって決まります。
必要人員の計算式は
許可病床数÷加算区分(●対1) となります。
上記の計算で出てきた値の小数点第一位は四捨五入となります。
例えば400床の病院で加算区分30対1を届け出る場合は
400(床)÷30(対1)=13.33・・
→13人(小数点第一位四捨五入)となります。
この計算式をもとに100床と400床の病院での基準を一覧にしてみました。
許可病床数100床の場合 | |
加算区分 | 必要人員 |
15対1 | 6.67→7人以上 |
20対1 | 5.00→5人以上 |
25対1 | 4.00→4人以上 |
30対1 | 3.33→3人以上 |
40対1 | 2.50→3人以上 |
50対1 | 2.00→2人以上 |
75対1 | 1.33→1人以上 |
100対1 | 1.00→1人以上 |
100床の病院の場合、四捨五入の計算上、30対1と40対1の必要人員は両方とも「3人以上」となります。
許可病床数400床の場合 | |
加算区分 | 必要人員 |
15対1 | 26.67→27人以上 |
20対1 | 20.00→20人以上 |
25対1 | 16.00→16人以上 |
30対1 | 13.33→13人以上 |
40対1 | 10.00→10人以上 |
50対1 | 8.00→8人以上 |
75対1 | 5.33→5人以上 |
100対1 | 4.00→4人以上 |
勤務時間の数え方(要注意)
まず、職員の勤務時間に関わる文書を確認します。
少し理解しにくい文書です。
当該医師事務作業補助者は、雇用形態を問わない。(派遣職員を含むが、指揮命令権が当該保険医療機関にない請負方式などを除く)が、当該保険医療機関の常勤職員(週4日以上常態として勤務し、かつ所定労働時間が週32時間以上である者)と同じ勤務時間以上の勤務を行う職員である。なお、当該職員は、医師事務作業補助に専従する職員の常勤換算による場合であっても差し支えない。ただし、当該医療機関において医療従事者として勤務している看護職員を医師事務作業補助者として配置することはできない。
これを読むと労働時間が32時間以上の職員を1名として数えられるようにも読み取れなくもないですが、実はそうではありません。
これは常勤職員の労働時間が32時間を下回る場合には32時間を常勤の労働時間として考えます。
例えば、常勤職員の所定労働時間が38時間の場合、32時間ではなく38時間毎に常勤職員1名という数え方をします。
厚生局との話でも、このような解釈違いをされている病院が多いとの話でした。
職員数の数え方例
では、ある病院の常勤職員の週あたりの所定労働時間を38時間と仮定して配置人数を数えてみます。
週の所定労働時間
Aさん(パート) 30時間
Bさん(バート) 20時間
Cさん(パート) 35時間
Dさん(常勤) 38時間
合計 123時間
合計時間:123時間÷38時間(常勤の所定労働時間)=3.2人
という計算で、この場合は3.2人配置されていることになります。
人員の配置基準の代表的なものに病棟職員の配置基準を計算する「様式9」がありますが、様式9の場合、実際の勤務時間が反映され、休暇や休みは反映されません。
医師事務作業補助体制加算の場合は、有給休暇を取ったとしても労働時間に数えられます。
この加算の場合の労働時間は実際の勤務時間ではなく契約時間(所定労働時間)ということになります。
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2022年度改定の保険点数
導入以後、改定ごとに増点され続けていますが、2022年度の改定でも増点されました。
新設された個別項目は導入後、1、2回程度の改定まで増点されることはよくありますが、ここまで連続して増点され続けているものは記憶にありません。
厚生労働省は導入を進めて、「勤務医の働き方改革」を推進し、質の高い医療を提供する観点から、評価をあげて、さらに進めていきたいということです。
最高の増点幅は「加算1:15対1の+80点」、最低でも「加算1:100対1の+52点」となっています。
手厚い配置をしているほど、増点幅が大きくなっています。
収益と費用のシミュレーション・費用対効果を検証
ここでは、医師事務作業補助体制加算の収益性を確認するためのシミュレーションをやってみます。
収益が上がっていても費用がそれ以上に上がっていると経営的な改善は見られません。
次のようなシミュレーションの前提の上に経営戦略を練ってみたはいかがでしょうか。
条件は次のとおりです。
\シミュレーションの条件/
許可病床数は300床
届け出は「加算1:20対1」 835点
月当たりの新入院は450件(入院期間が通算される再入院ではない)
全病床が算定可能な病床とする
1点は10円とする
常勤の週あたりの労働時間を38時間とする
配置する職員は非常勤職員とし、時給は1500円とする
月あたりの収益
①450(件)×835(点)×10(円)=¥3,757,500-
収益の計算は費用と違い、保険点数と新入院の件数をかけることでに計算できます。
費用
費用の計算は少し複雑な計算になります。
必要人員
②300(床)÷20(対1)=15(人)
必要人員数は病床数と加算区分をかけることで計算できます。
小数点以下の端数が出た場合は小数点第一位を四捨五入します。
週あたりの勤務時間
③38(時間)×15(人)=570(時間)
常勤職員の勤務時間である38時間と必要人員の15人をかけて計算します。
月当たりの勤務時間
④570(時間)×4(週間)=2,280(時間)
③で計算した週あたりの勤務時間を月換算するために「4」をかけます。
ひと月、4週間として計算しています。
人件費
⑤2,280(時間)×1,500(円・時給)=3,420,000(円)
④で計算した勤務時間に時給をかけることで人件費を計算します。
結果
ここまでに計算した収益から人件費を差し引くと
収益:3,757,500(円)-人件費:3,420,000(円)=337,500(円)
およそ34万円のプラス収益となります。
実際には、これに加えて管理者をおいたり、労務経費やMA用の電子カルテ設置などの費用が必要になってきますが、単純収支だけでもプラスになるので、導入する価値は充分にあると言えます。
当然ですが、医師の事務作業が軽減されるため、より多くの患者さんを効率的に診察することができ、医療の質・向上にも繋がります。
2022年度の施設基準の変更点
変更点を加算1と加算2にわけて説明しますが、どちらも緩和されました。
加算1の変更点
「当該保険医療機関における3年以上の勤務経験を有する医師事務作業補助者が 、それぞれの配置区分ごとに5割以上配置されていること」が追加されました。
一方で削除されたものもあります。次の文言はすべて削除されました。
医師事務作業補助者の延べ勤務時間数の8割以上の時間において、医師事務作業補助の業務が病棟又は外来において行われており、・・(以下 略)
ア 病棟とは、入院医療を行っている区域をいい、スタッフルームや会議室等を含む。ただし、医師が診療や事務作業等を目的として立ち入ることがない診断書作成のための部屋及び医事課等の事務室や医局に勤務している場合は、当該時間に組み込むことはできない。
イ 外来とは、外来医療を行っている区域をいい、スタッフルームや会議室等を含む。ただし、医師が診療や事務作業等を目的として立ち入ることがない診断書作成のための部屋及び医事課等の事務室や医局に勤務している場合は、当該時間に組み込むことはできない。
ただし、前段の規定にかかわらず、医師の指示に基づく診断書作成補助、診療録の代行入力及び医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理、院内がん登録等の統計・調査、医師等の教育や研修・カンファレンスのための準備作業等)に限っては、当該保険医療機関内における実施の場所を問わず、病棟又は外来での医師事務作業補助の業務時間に含めることができる。
要約すると、これまでMAの作業場所は医事課、医局内では一部、認められていませんでしたが、今後は、作業場所が問われなくなったと解釈できます。
加算2の変更点
加算2の変更点は、これまで問われていた年間の救急件数や手術件数、3次救急の実施などが問われなくなり、区分ごとの人員配置があれば、良いことになりました。
まとめ
2022年度の診療報酬改定でもさらに評価が上がった「医師事務作業補助体制加算」について解説しました。
2008年の新設以後、算定要件は変わってきましたが、保険点数は増加の一途です。
今回は点数の増点だけでなく、基準も緩和されました。
ここ数年は「医師の働き方改革」が叫ばれる中、「勤務医の負担軽減」が図られるような施策が進められてきています。
この考え方が続く間は、算定要件や保険点数が悪くなることはないでしょう。
収益的にみても決して悪くないので、積極的な導入を検討することをおすすめします。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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