毎回の診療報酬改定では避けては通れない「重症度、医療・看護必要度」ですが、2024年6月からの基準が見えてきました。病院管理者にとっては非常に重要で病棟の機能を維持・変更などに非常に大きな影響を与えます。
ここ何回かの診療報酬改定で「データ提出加算」を義務化している入院料が増えてきています。中医協ではこのデータ提出加算で提出されたデータをもとに「重症度、医療・看護必要度」や「平均在院日数」をはじめとする様々な病院のデータを回収・分析し、医療費の適正化(抑制?)をはかっています。
データを提出している病院はほぼ丸裸にされていると言っても過言ではありません。
参考:データ提出加算が義務化されている入院料
- 急性期一般入院基本料
- 療養病棟入院基本料
- 専門病院入院基本料(7対1、10対1)
- 回復期リハビリテーション病棟入院料
- 地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)
- 地域一般入院基本料
- 専門病院入院基本料(13対1)
- 障害者施設等入院基本料
- 特殊疾患入院医療管理料
- 特殊疾患病棟入院料
- 緩和ケア病棟入院料
- 精神科救急急性期医療入院料
データ提出加算で病院の現状はつかまれてしまいます。今後もデータを根拠に診療報酬改定を進めていくとみてまちがいありません。
なんだか全部、把握されるのって嫌な感じですね。
では本題である「平均在院日数」と「重症度、医療・看護必要度」について詳しく見ていきます。
個別項目についてはこちらをご覧ください。
中央社会保険医療協議会 総会(第583回):個別改定項目(その3)について
\病院経営・運営を学ぶための1冊/
急性期一般入院料1の平均在院日数は16日以内
今回の改定で現在、急性期一般入院料1の平均在院日数は18日以内となっている平均在院日数が、16日以内となりました。
2日間短縮されますが、影響はどの程度出るのでしょうか。
下の図は急性期一般入院料1(7対1)を算定している病院の平均在院日数の分布をグラフ化したものです。
出典:入院・外来医療等の調査・評価分科会(2023年8月10日)資料
平均在院日数を16日に短縮することで、10%程度の病院が基準を守れなくなる可能性が出てきます。もし10%が入院料1から変更していくとすると、厚労省の目論見としては成功ということでしょうか。
一方で、実は近年、急性期一般入院料1(7対1)の病棟は増加しています。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第548回) 令和5年7月5日(水)
7対1病床は平成26年以降減少傾向でしたが、令和3年から微増してきています。この間、厚生労働省は7対1病棟を減らそうと施設基準の厳格化を勧めてきましたが、目論見が外れているということになります。
自院が16日以上の平均在院日数であった場合は気が気でないですのね・・
対応策として、退院支援の強化や、地域包括ケア病棟の開設、回復期リハ病棟の開設などの在宅に近い病棟を始めると転棟により平均在院日数の短縮は可能になるのではないでしょうか。今回の診療報酬改定からは、これまでより二か月遅れの6月からの改定になるので、これまでよりは少し時間があるため対策は考えやすくなってきました。
看護必要度の変更点
今回もA項目を中心に評価方法が変更になります。
「創傷処置」 の項目
重症度、医療・看護必要度Ⅰにおける 評価対象を 、重症度、医療・看護必要度Ⅱにおいて評価対象となる診療行為を実施した場合と するとともに、「重度褥瘡処置」に係る診療行為を評価対象から除外する。
「重度褥瘡処置」は対象から外れます。
2026年度改定の対象は次の通りです。
2026年度改定の評価対象(レセプト)
・創傷処置(100cm2未満)
・創傷処置(100cm2以上500cm2未満)
・創傷処置(500cm2以上3000cm2未満)
・創傷処置(3000cm2以上6000cm2未満)
・創傷処置(6000cm2以上)
・下肢創傷処置(足部(踵を除く)の浅い潰瘍)
・下肢創傷処置(足趾の深い潰瘍・踵部の浅い潰瘍)
・下肢創傷処置(足部(踵を除く)の深い潰瘍・踵部の深い潰瘍)
・熱傷処置(100cm2未満)
・熱傷処置(100cm2以上500cm2未満)
・熱傷処置(500cm2以上3000cm2未満)
・熱傷処置(3000cm2以上6000cm2未満)
・熱傷処置(6000cm2以上)
・電撃傷処置(100cm2未満)
・電撃傷処置(100cm2以上500cm2未満)
・電撃傷処置(500cm2以上3000cm2未満)
・電撃傷処置(3000cm2以上6000cm2未満)
・電撃傷処置(6000cm2以上)
・薬傷処置(100cm2未満)
・薬傷処置(100cm2以上500cm2未満)
・薬傷処置(500cm2以上3000cm2未満)
・薬傷処置(3000cm2以上6000cm2未満)
・薬傷処置(6000cm2以上)
・凍傷処置(100cm2未満)
・凍傷処置(100cm2以上500cm2未満)
・凍傷処置(500cm2以上3000cm2未満)
・凍傷処置(3000cm2以上6000cm2未満)
・凍傷処置(6000cm2以上)
「呼吸ケア(喀痰吸引のみの場合を除く)」 の項目
重症度、医療・看護必要度Ⅰにおける評価対象を、重症度、医療・看護必要度Ⅱにおいて評価対象となる診療行為を実施した場合とする 。
2026年度の対象は次の通りです。
・酸素吸入
・突発性難聴に対する酸素療法
・酸素テント
・間歇的陽圧吸入法
・鼻マスク式補助換気法
・体外式陰圧人工呼吸器治療
・ハイフローセラピー(15歳以上)
・人工呼吸
・人工呼吸(5時間超15日目以降)
・人工呼吸(5時間超14日目まで)
・閉鎖循環式麻酔器使用気管内挿管下酸素吸入
・閉鎖循環式麻酔器使用気管内挿管下酸素吸入(5時間超14日目まで)
・閉鎖循環式麻酔器使用気管内挿管下酸素吸入(5時間超15日目以降)
・無水アルコール吸入療法
・無水アルコール吸入療法(5時間超14日目まで)
・無水アルコール吸入療法(5時間超15日目以降)
・人工呼吸(閉鎖循環式麻酔装置)
・人工呼吸(閉鎖循環式麻酔装置)(5時間超14日目まで)
・人工呼吸(閉鎖循環式麻酔装置)(5時間超15日目以降)
・酸素吸入(マイクロアダプター)
・酸素吸入(マイクロアダプター)(5時間超14日目まで)
・酸素吸入(マイクロアダプター)(5時間超15日目以降)
・酸素加圧(気管内挿管下に閉鎖循環式麻酔器)
・酸素加圧(気管内挿管下に閉鎖循環式麻酔器・5時間超14日目まで)
・酸素加圧(気管内挿管下に閉鎖循環式麻酔器・5時間超15日目以降)
・人工呼吸(半閉鎖式循環麻酔器)
・人工呼吸(半閉鎖式循環麻酔器)(5時間超14日目まで)
・人工呼吸(半閉鎖式循環麻酔器)(5時間超15日目以降)
・人工呼吸(鼻マスク式人工呼吸器)
・人工呼吸(鼻マスク式人工呼吸器)(5時間超14日目まで)
・人工呼吸(鼻マスク式人工呼吸器)(5時間超15日目以降)
「注射薬剤3種類以上の管理」 の項目
初めて該当した日から7日間を該当日数の上限とする とともに、 対象薬剤から「アミノ酸・糖・ 電解質・ ビタミン」等の静脈栄養に関する薬剤を除外する。
これは影響が大きそうな変更ですね。7日間を超えて点滴を続ける場合は対象とならないことと、多くの補液や栄養剤が対象が外れてしまいます。
「専門的な治療・処置」の項目
「抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ)」について、対象薬剤から入院での使用割合が6割未満の薬剤を除外する。
「抗悪性腫瘍剤の内服の管理」について、対象薬剤から入院での使用割合が7割未満の薬剤を除外する。
外来で実施することがスタンダードになってきている「がん化学療法」の薬剤については対象から外してしまうということでしょう。
「専門的な治療・処置」 の項目
「抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ)」、「麻薬の使用(注射剤のみ)」、「昇圧剤の使用(注射剤
のみ)」、「抗不整脈薬の使用(注射剤のみ)」、「抗血栓塞栓薬の使用」及び「無菌治療室での治療」の評価について、2点から3点に変更する。
専門的な治療と評価されう薬剤については、評価が上がっています。
「救急搬送後の入院 」及び「 緊急に入院を必要とする状態」
評価日数を 現在の5日間から2 日間に変更する。
これも影響が大きく出そうな変更です。救急医療に力を入れて取り組んでいる病院には大きな影響が出てきそうですね。
特に内科系救急病院には大きな影響を与えそうです。
内科系救急で看護必要度をあげていて7対1を届け出ているところは新設の「地域包括医療病棟入院料」への切り替えを検討する必要がありそうです。
C項目について
対象手術及び評価日数について、実態を踏まえ見直す。
C項目の変更点は次の通りです。
現在の評価対象(レセプト)
・開頭手術(7日間)→ 11日間
・開胸手術(7日間)→ 9日間
・開腹手術(4日間)→ 6日間
・骨の手術(5日間)→ 10日間
・胸腔鏡・腹腔鏡の手術(3日間)→ 4日間
・全身麻酔・脊椎麻酔の手術(2日間)→ 5日間
・救命等に係る内科的治療(2日間)(①経皮的血管内治療)→ 4日間
・救命等に係る内科的治療(2日間)(②経皮的心筋焼灼術等の治療)→ 4日間
・救命等に係る内科的治療(2日間)(③侵襲的な消化器治療)→ 4日間
別に定める検査(2日間)
・経皮的針生検法
・経皮的腎生検法
・EUS-FNA
・縦隔鏡検査
・腹腔鏡検査
・胸腔鏡検査
・関節鏡検査(片)
・関節鏡検査(両)
・心カテ(左心)
・心カテ(右心)
別に定める検査(5日間)
(略)
C項目については、評価を上がりました。
手術で看護必要度を上げている病院には有利に働く変更ですね。
短期滞在手術等基本料について
対象手術等を実施した患者を評価対象者に加える。
これは手術の種類によって、病院側にとって有利になったり不利になったりしますね。
急性期一般入院料1の看護必要度
急性期一般入院料1は看護必要度の計測を「Ⅱ」で実施することが義務化されているので、評価はⅡだけになります。
加えて、B項目による評価がなくなったのでA項目とC項目だけで評価されます。
B項目は看護師などが患者ごとに日々一人ずつ評価していましたが、A項目・C項目はレセプトデータを参照することになるので、看護師の業務負担の軽減になります。
2026年度の基準は次の通りです。
急性期一般入院料1の変更点
①:「A3点以上」又は「C1点以上」 20%以上
②:「A2点以上」又は「C1点以上」 27%以上
※ ①および②の両方を満たすことが要件
さらに前回まであった「200床未満の病院」に対する緩和措置がなくなりました。
200床未満の7対1病院は厳しくなるところが多いのではないかと想像します。この変更は「中小病院は高度急性期は担わなくてもいい」という厚労省からのメッセージだと読み取れます。
病院の担当者はシミュレーションが急がれます。
新基準を反映させてシミュレーションするのは、かなり大変そうです。メーカーの対応がないと相当時間がかかりそうですね。
エクセルなどを使ってある程度は自分でできるかもしれませんが、知識と技術が必要になりますね。
急性期一般入院料2・3・4・5の看護必要度
急性期一般入院料2から5の看護必要度は次の通りになりました。
こちらも「200床未満の病院」に対する緩和措置がなくなりました。
2026年度基準 | 旧基準200床以上 | 旧基準200床未満 | ||
入院料2 | 看護必要度Ⅰ | 22% | 27% | 25% |
看護必要度Ⅱ | 21% | 24% | 22% | |
入院料3 | 看護必要度Ⅰ | 19% | 24% | 21% |
看護必要度Ⅱ | 18% | 21% | 19% | |
入院料4 | 看護必要度Ⅰ | 16% | 20% | 18% |
看護必要度Ⅱ | 15% | 17% | 15% | |
入院料5 | 看護必要度Ⅰ | 12% | 17% | |
看護必要度Ⅱ | 11% | 14% |
次回以降の見直し
中医協では「今後、今回改定の影響を調査・検証し、急性期一般入院料の適切な評価の在り方につ いて、引き続き、今後の診療報酬改定に向けて検討を行うこととする。」とコメントされているので、以後の病床数の推移を見ながら、急性期病床、特に急性期1(7対1)病棟が削減されない限り、厳格化は止まらないとみるべきでしょう。
その受け皿として、”地域包括医療病棟入院料”も新設されましたし、その動向が気になるところです。
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