地域包括ケア病棟は2014年度(平成26年度)に新設されて以後、診療報酬改定の度に変更が加えられてきました。
今回の診療報酬改定においても例外なく変更が加えられています。今回も明らかに”厳格化”されています。
変更内容は「入院日数ごとに点数の差別化」・「訪問看護実施回数の増加」・「転棟割合および入棟割合から短手3を除外」・「在宅復帰率から短手3を除外」が主な変更内容となっています。
変更点をしっかり理解して、今後の病院運営に活かしていきましょう。
入院料の見直し・40日が境界線
地域との連携を重点課題とする大義の元、入院日数に応じた入院料が設定されました。簡単にいうと「入院日数の短い」ものは評価が上がりますが、逆に「入院日数が長い」ものは評価が下がります。
具体的には「40日以内の期間」は点数が高くなりますが、「41日以上の期間」は点数が下がります。
入院料を見直して、「40 歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げに資する措置」として考えられた点数とのことです。
改定前後の点数は次の通りです。
改定後 | 現行 |
---|---|
1 地域包括ケア病棟入院料1 イ 40日以内の期間 2,838点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,823点) ロ 41日以上の期間 2,690点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,675点) | 1 地域包括ケア病棟入院料1 2,809点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,794点) |
2 地域包括ケア入院医療管理料1 イ 40日以内の期間 2,838点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,823点) ロ 41日以上の期間 2,690点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,675点) | 2 地域包括ケア入院医療管理料1 2,809点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,794点) |
3 地域包括ケア病棟入院料2 イ 40日以内の期間 2,649点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,634点) ロ 41日以上の期間 2,510点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,495点) | 3 地域包括ケア病棟入院料2 2,620点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,605点) |
4 地域包括ケア入院医療管理料2 イ 40日以内の期間 2,649点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,634点) ロ 41日以上の期間 2,510点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,495点) | 4 地域包括ケア入院医療管理料2 2,620点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,605点) |
5 地域包括ケア病棟入院料3 イ 40日以内の期間 2,312点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,297点) ロ 41日以上の期間 2,191点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,176点) | 5 地域包括ケア病棟入院料3 2,285点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,270点) |
6 地域包括ケア入院医療管理料3 イ 40日以内の期間 2,312点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,297点) ロ 41日以上の期間 2,191点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,176点) | 6 地域包括ケア入院医療管理料3 2,285点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,270点) |
7 地域包括ケア病棟入院料4 イ 40日以内の期間 2,102点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,086点) ロ 41日以上の期間 1,992点 (生活療養を受ける場合にあっては、1,976点) | 7 地域包括ケア病棟入院料4 2,076点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,060点) |
8 地域包括ケア入院医療管理料4 イ 40日以内の期間 2,102点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,086点) ロ 41日以上の期間 1,992点 (生活療養を受ける場合にあっては、1,976点) | 8 地域包括ケア入院医療管理料4 2,076点 (生活療養を受ける場合にあっては、2,060点) |
表と通り、短期間で退院(退棟)する患者が多い病院は増収になりますが、逆の場合は減収になります。
ちなみに私の働く病院では少しだけ増収になりました。
今回の改定では多くの入院料が増点されています。他の入院料と比べた場合、増収割合は低くなった印象です。増点になったとはいえ、厳格化が進んでいると見るの正しい見解のように思えます。
在宅医療等の実績・訪問看護の基準が厳格化
施設基準の中に訪問看護の提供回数が明記されていましたが、在宅復帰や在宅との連携を進める観点で基準となる訪問看護の回数が増えました。
入院料および入院医療管理料の1から4に対する基準です。
当該医療機関が実施する訪問看護の回数 | |
---|---|
改定後 | 現行 |
3ヶ月で150回以上 | 3ヶ月で60回以上 |
現行の2.5倍の回数が基準となりました。
ひと月あたりに直すと、20回であったものが、50回まで増やせということです。
併設の訪問看護ステーションが実施する訪問看護の回数 | |
---|---|
改定後 | 現行 |
3ヶ月で800回以上 | 3ヶ月300回以上 |
こちらは現行の2.7倍が基準となりました。
こちらもひと月あたりに直すと、100回であったものが267回まで増やす必要があります。
いずれにせよ、片手間程度の訪問看護では地域包括ケアは担えないというメッセージだと読み取れます。
本格的に在宅事業をやっていない法人は淘汰される時代がやってきました。
訪問看護事業は収益性や地域との関係構築を鑑みれば「訪問看護ステーション」でサービス展開したほうがいいですよね。
転棟(転入)割合の変更
入院料2を算定している病院の転棟割合が変更になります。
これまで一般病棟からの転棟割合が60%となっていましたが、上限が少しあがり65%となりました。
許可病床数200床以上の「当該医療機関の一般病棟から転棟した割合」 | |
---|---|
改定後 | 現行 |
65% | 60% |
5%pの上昇しているので、一見する基準が緩くなったように見えますが、この後の述べる短手3の変更を考えると厳しくなる病院が多くなるのではないでしょうか。
自宅等からの入院から短期滞在を除外
一方で「自宅等から入棟した患者の占める割合」から「短期滞在手術等基本料を算定する患者」などが除外されます。
短手3などを算定する患者を多く、地域包括ケア病棟へ入院する運用をしている病院に取っては非常に厳しい基準変更となります。
中医協の議論の中で、「短手3」で運用している病院は地域包括ケアの役割を果たし切れていないという見方が強くなり、今回の変更になったようす。
「自宅等から入棟した患者の占める割合」から短手3除外を除外するのは入院料および医療管理料の1から4に適用されます。
在宅復帰率等の対象患者から短手3を除外
在宅復帰率についても「短手3」は除外の対象となりました。
在宅復帰率の基準となる「72.5%以上」というのは変わりませんが、短手3を算定する患者の在宅復帰率はほぼ100%であることを考えると、短手3患者の割合が高ければ高いほど病棟運営は厳しくなることは明白です。
経過措置
ここまでの変更は令和7年5月31日まで経過措置が設けられています。
改定後1年間は猶予されます。
令和7年5月末が経過措置ですが、在宅復帰率は直近6月の評価になるので、実質的には半年の経過措置と考えて良いでしょう。
老健が復帰先とみなされた
老健が在宅復帰先としてみなされていた時期がありましたが、この2024年度診療報酬改定から再び、一部の老健が在宅復帰先とみなされました。
ただしすべての老健が在宅復帰先となるのではなく、”強化型”または”超強化型”の老健のみが、しかもその半数だけが在宅復帰先として数えられるようになりました。
以下、施設基準の届出様式 様式50の一部抜粋
計算方法が少し複雑になりました。
緩和されたようにも見えますが、短期滞在が除外されたので厳格化される病院も多いのではないでしょうか。
一般病棟用の重症度、看護必要度の割合
地域包括ケア病棟入院料を算定している病院で「看護必要度」で苦労しているところは、ほとんどないと推測しますが、変更はあります。
看護必要度Ⅰで計測している病院は現行の「12%」から「10%」へと変更になりました。
割合こそ緩くなっているように思えますが、A項目の評価内容が変わってきているので実質的にはⅠであってもⅡであっても厳格化していることは推測できます。
もともと看護必要度の要件を満たすのは容易であったため、今回の改定で要件を満たすことができない病院は極めて少ないと察することができます。
地域包括ケア病棟 重症度、医療看護必要度 | |||
改定後 | 現行 | ||
看護必要度Ⅰ | 看護必要度Ⅱ | 看護必要度Ⅰ | 看護必要度Ⅱ |
10% | 8% | 12% | 8% |
まとめ
地域包括ケア病棟は亜急性期病棟の後継病棟して、2014年度に誕生し、多くの病院が届出を進めてきました。
診療報酬改定ごとに変更が加えられ、どんどん運営が複雑になってきました。
厚生労働省はデータ提出で報告されたデータを元に分析し、診療報酬に反映させてきました。今後もさらに分析を進めていくことは間違いありません。
病院経営はますます難しくなってきますが、知恵と工夫で乗り切りたいものです。
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